vo.1エステ

 私は池袋を歩いているとエステの客引きによく引っかかる。
ターゲットは、一応ファッションに気を使っているつもりでも美容に疎くて垢抜けてない女の子、だと思う。これがポイント。完全に美意識のない人を美容に眼を向けさせようと説得するのには骨が折れるし失敗しやすいが、少しでも向上心のある女の子に安易な夢を与えてその気にさせることは容易いということは想像に難しくない。

 では私はどちらのタイプかというと、実は両方の意識を持っている。服には関心があるが自分の身体の質を向上させようという気が全く起こらないのだ(私はデザインとか色に興味があるため。ちまちま顔のことなんか気にしているよりセンス磨いたほうが価値があると考えるため)。

 じゃあ、なんで捕まってしまうかというと、単に時間をつぶす必要があったからや、断るのが面倒になってしまったからという消極的な理由でである。もうこの時点で意志薄弱かと思われるかもしれないが、決して価値観が変容したのではない。だまされないぞという強固なる意志を持った状態でさらわれていくのだ。
さてさて、そんなわけで店に行くといろいろ肌に関するカウンセリングされるわけで、案の定結果はよろしくないわけだ(いちおう結果に対して驚いたリアクションしてあげる)。そしてそのあとに待ち構えているのが商売の宣伝。商売の宣伝といっても押し売りとは違う。いかにも医師か教師が良心によりアドバイスをしているような言い方で攻めてくる。「今やらないと手遅れになるよ」「一緒にがんばろう」「そんな適当なことしていちゃだめだよー(笑)」などなど。馬鹿にしているのか、本心なのか訳がわからない(いや、馬鹿にしている)。私は表面上へらへらして他人の希望通りにの対応をする性質があるのだが、はっきり言って憤慨していた。断るだけでなくそこではっきりと「いらん!」と怒って帰ればいいものを、やはり小心者なのか面倒なのか断たびに嘲笑的な叱責を受けるわけ。人間って不思議なもので、これを繰り返されると、もうどうにでもなれぃっと思ってしまうのだ。そして極め付けが、自分の投資になるし、という思考が芽生え、それが不本意な購入を正当化する最も妥当な根拠となってしまっているのだ。
 
なんということだろう。

「美」「きれい」「白い」、これらは特に女性を形容する言葉であるため、医療衛生、美容健康上、男性にとっても大切な要素であるはずなのに女性ばかりに求められる。私も別に皮膚癌を心配しているのではない。結局は単にジェンダー規範の罠にまんまと引っかかるべくごく普通のセクシュアリティを持っていたに過ぎないのだった。

(特に最近5月上旬の体験を振り返って作成)