さよなら…

近所に幼稚園のころから小学生のころまで行きつけだった駄菓子屋さんがある。
駄菓子屋の店主は「おばちゃん」と呼ばれている人で、当時から相当なおばあさん(現在90歳以上だと思う)。祖父が鳩ヶ谷に移住したのは30年ほど前だが、そのころから既に店はあったそうな。
店といっても、おばちゃんの自宅である平屋の土間あたりが店舗になっているというもの。店の入り口のガラス製の引き戸は常に閉まっていて、店に入るには、インターホンを押して奥からおばちゃんが鍵を開けてくれるのを待たなくてはならない。それは、覚悟(?)をきめて押さなくてはいけないものだった、毎回スリルを感じていた(それでもまた行きたくなるのはなぜだろう)。中に入ると、わずか4畳くらいのスペースに、山盛りの、しかしきちんと整頓された駄菓子があり、小さなおばあちゃんはちょこんと座って物色する私たちを眺めている。ここの駄菓子は厳選されているんだよね、他の駄菓子屋さんとはちょっと手に入らないものがあったりね、店に居るだけで面白かった。

けれど10年ほどおばちゃんの店にはいっていない。
おばちゃんは元気かしら?

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2日前、近所で火事があった。
燃えたのはおばちゃんの店兼自宅だった。
大量の水道水や川の水を用いて消火する必要があるほどの火事のようで、その日のお風呂の水は茶色になっていた。そのお湯の色はおばちゃんの死を暗示しているみたいで不吉に思えた。
次の日、おばちゃんの店の前に線香が焚かれた(そうだ)。
おばちゃんには身内が誰も居ない。
あの狭い店で何十年もそこに独りで過ごしていたおばちゃんを思うと、
色々と思い残すことが多くて、悲しくて、今もその現場に行けない。