18切符の旅 養老・金沢

社会人でかつ正社員にもかかわらず、大学院時代に比べて預金が5分の1に減っている私は、仕方なく18切符を使って4日間の旅行に出かけました。使った金額は切符代金を含めて3万円。目的は2点に絞られているので、おいしいものを食べられなくても、ほとんどの時間を移動に費やしてもそれほどの苦労はありませんでした。



【目的1 岐阜県養老市の養老天命反転地 】
HP http://www.yoro-park.com/j/rev/

現代美術家荒川修作と、パートナーで詩人のマドリン・ギンズのプロジェクトを実現したテーマパークです。」

いわゆる体感できるアートというものですが、具体的には楕円形のおわん状の土地の中に、平衡感覚を失ってしまいそうな家らしからぬ家や家具、そして木々が配置されている、という大きな作品です。

「ここでは、予想もつかなかった風景や懐かしい風景、いろいろな出来事に出会うことになるでしょう。はじめて体験する世界で、新しい自分を発見できるかもしれません。」

なるほど。確かに、おわん状の土地の内部に入る前は「なんだ、やりたい放題の公園だなぁ」「たいして広くないなぁ」と作品を「評価」していましたが、実際に作品の内部に入ってその一部になってみると、自分の存在の小ささや、いかに自分の感覚が主観に基づくものであるかなど「自己に向き合う」ものでした。

ちなみに、HPにはこうした体験を「しやすく」するための「使用法」http://www.yoro-park.com/j/rev/use001.htmlなるページがあります。私はこのページを読まず、そしてもちろん「使用法」どおりに体験しませんでしたが、使用法に近いことを自然とやってのけ、十分に楽しむことができました。おそらく、私は(また、ほかのオーディエンスもだと思いますが)本能的に(あまり本能などと言いたくありませんが、このような体験はしたことがなく、体験的・経験的にとは言い難いので)どのように見て感じる「べきか」がわかっているからです。ポストモダニズムの芸術が作者のコンセプトありき、あるいはオーディエンスに解釈をゆだねるのに対して、この作品は若干異なります。オーディエンスの解釈にゆだねますが、それは作品のコンテクストの中でではなく、オーディエンスのコンテクストの中に見出させるからです。自分の経験や記憶を想起させるという別の鑑賞法は、「鑑賞」と言えるものではないかもしれませんが、アートとの新たな向き合い方を知ることができました。

とても面白かったです。まぁ、1生に1度しか行かないであろう場所に、半日かけて行ったということも、この感動を増幅させているのですが。


【目的2 ロン・ミュエック展 金沢21世紀美術館
http://www.kanazawa21.jp/
http://www.kanazawa21.jp/exhibit/mueck/index.html

これは3日目に行ったのですが、8月31日までの展覧会なので是非にと思い無理な行程ではありましたが行ってみました。

ロン・ミュエックが目指すのはリアリティではなく、ハイパーリアリティ(WEB用語にもありますが、ここでは現実よりもより現実的な、という意味)。本物らしい質感、重量感は彼のお得意の特殊メイク技術を用い、また圧倒的な存在感を大きさによって表現することで、ハイパーリアリティを達成しようと試みています。確かに、「ガール」と呼ばれる巨大な女の新生児の爪先、皺、皮膚の肉感は、今にも動きだしそうなほどの生命力を感じさせます。私たちがそう思う理由は、実際には樹脂でできた硬い表面に「やわらかそうな皮膚だ」と感じるだけの要素がもちこまれて「リアル」を構築しているからです。また、彼の全35の作品の中で唯一の動物である犬は、「写真で見たことのある犬」を制作したのだそうです。つまり、犬を模造したのではなく、彼のリアルを満たす条件を満たした、ハイパーリアリティとしての犬を表現したのです。(残念ながら金沢には犬の作品はありません)。そのほかにも、人間の構図、骨格のバランスなどは「うまい」とは言い難くアンバランスなのも同様の理由だと思います。


”私にとっての「リアル」”はすなわち「ハイパーリアル」。
どちらがより本物か?
本物とは何か?
WEBの話にも通じる話で、すぐには答えることができません。